医師だけではありません。
現代は心不全パンデミックと言われ、心不全患者が年々増加しています。もはや心不全は医師が薬を処方して良くなる病気ではなくなりました。むしろ食事療法、薬物療法、運動療法を患者さんが自己管理しながら継続していくことがカギとなります。理解ではなく、実践をどうするか。これが重要なのです。これに対して、当院の循環器内科では毎週「心不全カンファレンス」を行っております。このカンファレンスでは医師以外にも、看護師、管理栄養士、理学療法士、薬剤師、医療ソーシャルワーカー(MSW)が集まり、入院患者の治療や退院後の生活などに関して話し合っております。今回はそんなお話です。
看護師は、普段、患者さんの傍にいる時間が最も長いため、食事状況や病気に対する心理状態を把握し、それを共有したり傾聴することに長けています。また、MSWはそのご家族にあった社会福祉を提供するために、患者さんの置かれている社会的状況をきめ細かく丁寧に聞き、退院後に最大限の支援ができるようにコーディネートしていきます。そして、薬剤師は薬の効果や副作用の説明だけではなく、自宅での服薬状況を聞き、その人の生活習慣に合わせた薬剤処方を提案してくれます。例えば、合剤を使用したり朝1回の内服に変更したりと、アドヒアランス低下に繋がるのを少しでも減らす工夫をして下さいます。
理学療法士は、入院中に元のADL近くまでリハビリアップをしてくれることにも驚きますが、普段の運動習慣や家の周辺事情を考慮した運動の仕方や、運動する気が起きない時にも筋力を落とさないような工夫を提案し、入院中のリハビリに取り入れてくれます。管理栄養士は、患者さんの食の嗜好を聞き、そこからエネルギー量を減らさず塩分を減らすなどバランスの取れた食事の工夫を考えてくれます。間食を加えたり栄養補助食品を導入したりして、制限がある中でも食の楽しみを奪うことない知恵には感心させられます。
このような多職種による心不全カンファレンスの目的は、理想的な治療ではなく個々人にできそうな目標を患者さんと共有することにあります。各職種はその専門知識と技能を駆使し患者の状態を捉えるので毎回頭が下がります。また、患者さんが各職種に見せる顔も異なります。それらの情報をカンファレンスで共有し、患者さんを含め全員が同じ方向にむかって進んでいきます。これこそが医療の神髄と言えるのではないでしょうか。医師の仕事だけではなく、多職種の仕事ぶりに注目してみてはいかがでしょうか。