診療実績・対象疾患
対象疾患
口腔外科一般、顎変形症、口腔顎顔面外傷(軟組織の損傷、歯の外傷、歯槽骨骨折、顎顔面骨折)、口腔腫瘍、顎顔面インプラント(骨造成、インプラント)、嚢胞(軟組織、顎骨嚢胞)、炎症(顎骨骨髄炎、薬剤関連顎骨壊死、歯性上顎洞炎、歯性感染症)、口腔粘膜疾患、顎関節疾患、唾液腺疾患(顎下腺、舌下腺)、口腔先天異常(歯・顔面・口腔の異常)、埋伏歯、口腔機能管理(周術期など)、特殊歯科。
診療実績(手術件数)
2023年度の中央手術室での手術件数は、全身麻酔385件、静脈内鎮静法143件です。
埋伏歯が最も多く、顎骨嚢胞、顎骨骨髄炎、顎変形症、口腔顎顔面外傷、口腔腫瘍、歯科インプラント(骨造成、歯科インプラント埋入)など多岐にわたっております。
これらの多くの疾患に対してクリニカルパスを適用し、入院期間の短縮、医療内容の可視化・標準化、医療の質の向上に努めております。
クリニカルパスは、抜歯術(1泊2日)、埋伏歯抜歯術、嚢胞摘出術(顎骨・軟組織)、インプラント埋入術・骨移植術(2泊3日)、下顎骨骨折観血的整復固定術、顎矯正手術「上顎」(9泊10日)、顎矯正手術「上下顎・下顎」(10泊11日)などです。
診療内容
埋伏歯(まいふくし)
埋伏(まいふく)とは、歯が萌出できない(生えない、あるいは生えることができない)状態のことです。よく知られているのは「親知らず」です。もともと歯胚(歯の芽)の位置が深かったり、萌出(生える)スペースがない場合に埋伏します。その他、炎症のため歯自体が周りの組織と癒着(くっついたり)したり、乳歯(子供の歯)が残ったりすると埋伏の原因になります。※親知らず(智歯・第三大臼歯)
【埋伏智歯(おやしらず)の抜歯が必要な時】
【埋伏智歯(おやしらず)の抜歯】
埋伏智歯(おやしらず)は、各個人において埋伏(埋まりかた)の状態、歯根の形や方向などが異なります。必要に応じて、歯科用CTにより検査してから抜歯を行っております。歯科治療に対して恐怖心が強い、複数本の抜歯を希望する、難抜歯が予想されるなどの場合は全身麻酔や静脈内鎮静法を用いております。
顎変形症
顎変形症は上下顎骨の形態異常に随伴した咬合(かみ合わせ)の異常を呈するすべての疾患が含まれます。下顎前突症、顔面非対称、開咬症、上顎前突症などが一般的であります。外科的矯正治療(矯正歯科治療だけではなく手術を併用する)が必要となるのは矯正歯科治療のみでは咬合の問題を解決できないほど著しい骨格異常を有する場合です。当科では矯正歯科医と密接な連携連携のもと、顎矯正手術(入院期間は10~11日間、退院は手術後8~9日目)を行っております。さらに従来の顎矯正手術では十分な治療結果が得られなかった重度の下顎後退症や開咬症に対して、顎骨延長法を取り入れております。
【下顎枝矢状分割術】
下顎枝(下顎の歯の生えている部分より後ろの部分)を内外側に分割して、歯が生えている部分の骨を移動し、プレートで固定する方法です。下顎移動後の両骨片の接触面積が大きいため骨癒合が早く行われ、後戻りが少なく、移動量・移動方向の許容範囲が比較的大きいのが特徴です。
下顎枝矢状分割術 |
【Le FortⅠ型骨切り術】
上顎骨を歯根より上方の部分でほぼ水平に骨切りし、歯の生えている部分の骨を上部の骨から分離し、移動させた後にプレートで固定する方法です。この手術は上顎単独で行う場合もありますが、下顎単独の手術のみでは改善が見込めない著しい下顎前突症や顔面非対称では、しばしば下顎の手術と併用されます。
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【上顎前歯部歯槽骨切り術】
通常は第一小臼歯を抜歯して、同部の歯槽骨を骨切りし、前歯部の骨を移動させた後にプレートで固定する方法です。臼歯(奥歯)の咬合が正常で、上顎前歯部に著しい不正があり、矯正歯科治療単独では治療が困難な場合に行います。
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【下顎骨延長】
延長したい骨を骨切りし、その骨を毎日延長することにより、骨切りの部に骨を再生させ、骨を延ばす方法です。骨切りして骨延長器を装着し、1週間後から毎日0.5~1 mm骨切り部を延長します。計画した量を延長させ、延長部に骨が出来るまで保定し、6カ月後に骨延長器を除去します。
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【オトガイ形成術】
オトガイ部(下口唇の下方)の骨を移動したり、削除したりする方法です。オトガイ部の突出感あるいは後退感、左右非対称が顎矯正手術を行っても改善しない場合に行います。
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【骨固定用ミニプレートの除去】
骨を固定したチタンミニプレートは通常、骨性癒合が終了する手術後6カ月~1年を経過したところで除去します。一般に骨が仮骨により癒合するまでの期間は下顎骨で4~6週、上顎骨で6~8週とされています。したがって骨片固定期間はそれを上回る期間が必要です。チタンは体へのなじみが良いため、原則的には除去する必要はないと言われています。しかし、粘膜の上からプレートが触れて違和感が生じたり、感染の原因になったりすることもあるため、当科では除去しています。なお、吸収性プレートを使用した場合は除去する必要はありません。
【手術シミュレーション】
従来の頭部X線規格写真、咬合関係を再現した歯列石膏模型やCTに加えて、コンピューターソフトウェアの進歩により三次元的に顎顔面の形態を可視化した手術シミュレーションシステムを取り入れ、より安全に確実な顎矯正手術を行うことが可能となっております。
【三次元造形モデル】
3Dプリンターによる実物大立体造形モデルを作製し、手術シミュレーションや手術内容の説明などに使用しております。
【下顎後退症(骨延長)】
下顎は上顎に比べて成長が小さく後退しており、咬合は開咬を呈し下顎の後退も認められます。
一般的には下顎を前方に移動し一期的に咬合を構成する下顎前方移動手術を行いますが、このような従来の方法では術後に再び咬合の異常が発症する”後戻り”を起こす危険性が高く、さらに顎関節の異常な吸収を引き起こす可能性が指摘されております。そこで下顎骨の骨延長を適用しました。
骨延長器装着後8日目より、1日2回(朝・夕)0.5mm/回骨延長し、最終的には右7.0mm、左9.5mmの延長が得られました。口腔内に露出する延長装置の周囲のケアを担当歯科衛生士が行います。 骨延長終了後6カ月には延長部の新生骨は成熟骨になり、この時期に骨延長装置を除去します。
術後矯正歯科治療を行い、機能的な咬合が完成します。手術前に認められた咬合の異常や下顎の後退は改善しております。
【歯科衛生士による専門的口腔ケア】
外科的矯正治療期間中は、患者さんの歯面に矯正用ブラケットが装着されています。手術翌日からは顎間固定(口が開かなくなる)が数日間行われるため、ブラッシングが不十分となり口腔衛生状態が悪化し、ひいては創部(手術の創)が感染する可能性もあります。そこで当科では患者さんの入院期間中に、歯科衛生士が「プラーク・フリー法」による口腔ケアを行い、徹底した口腔衛生管理をしております。
プラーク・フリー法とは、歯垢染色液により歯面に付着している歯垢を染色し、音波歯ブラシ・歯間ブラシ・デンタルフロスなどを用いて、歯垢を完全に除去することです(エキスパートナースVol22, 岸本裕充先生より引用)。
【歯科衛生士による術前カウンセリング】
顎矯正手術を受ける患者さんは、手術方法、手術の合併症(危険性)、手術後の腫脹(顔の腫れ)・疼痛(痛み)・顎間固定中の食事や口腔ケアの方法、手術後の予後など様々な精神的不安を抱いています。当科ではこれらの中で手術後の腫脹・疼痛・顎間固定中の食事や口腔ケアの方法に対する不安を解消するために、歯科衛生士による術前にカウンセリングを行っております。
歯科インプラント
デンタルインプラント:歯を抜いた場所に歯の機能を代用させる目的で顎骨(あごの骨)に埋め込む人工的な物質(人工歯根)。
歯の欠損(歯を抜いた場所)の治療は、通常、ブリッジや義歯(入れ歯)を装着することになります。しかしより天然歯(自分の歯)の状態に近い機能・形態の回復を得るために歯科インプラント治療を選択することが増えてきました。
【歯科インプラント治療】
顎骨(あごの骨)にインプラント体を埋入し固定するので、義歯のように異物感や取り外しの必要がなく、咬合力(かむ力)も天然歯にほぼ匹敵する程度まで回復できます。また、咬合力が顎骨に直接伝達するため骨の吸収を抑制します。ブリッジのように、健全な隣在歯(隣接する歯)を削ることはありません。
通常の補綴(人工物で補う)治療との大きな違いは、インプラント体埋入手術、またこれに関連する外科処置を伴うことによる全身への負担および経済的負担がかかることです。さらに高度な技術や専門的知識、そして長い治療期間を必要とします。
【インプラントの寿命】
インプラント体の残存率は、10~15 年の累積生存率は上顎で約 90%程度、下顎で 94%程度、抜歯後即時(抜歯直後)埋入や骨移植を併用した場合は87~92%程度です。
【リスク】
一般的なものは年齢(高齢者、若年者)、喫煙、全身的なものは全身疾患、局所的なものは口腔内(口の中)の状態、歯周病、顎関節、咬合(かみ合わせ)、骨量と骨質、顔貌(スマイルラインなど)などがあります。
【トラブルと合併症】
手術では感染、神経損傷、上顎洞炎など、補綴ではインプラント体の破折、スクリューの緩みや破折など、治療後ではインプラント周囲炎(感染によって引き起こされるインプラント周囲組織の炎症)などが起こることがあります。
【治療費】
健康保険の適応となっておらず原則として自由診療となり、全額自己負担となります。インプラント治療の詳細や料金等は、受診された際にご説明いたします。 なお、広範囲顎骨支持型装置埋入手術および広範囲顎骨支持型補綴は保険適用となります(当科の特色をご参照ください)。
【高度の顎堤(どて)吸収や審美領域のインプラント治療】
骨造成(骨移植、骨補填材)とインプラント補綴の複合療法が必要となることがあります。このような場合、自家骨(オトガイ部、下顎枝、腸骨など)や骨補填材により骨造成を行い、インプラント補綴することにより咬合(かみ合わせ)機能と審美性の回復を図っております。
【骨移植】
インプラント体の埋入に必要な垂直的あるいは水平的骨量が不足している場合に行います。
・べニアグラフト:唇・頬側にブロック骨を張りつけて顎堤の幅を獲得します。
・オンレーグラフト:顎堤の上にブロック骨を載せて、平坦で低い顎堤を高くします。
・Jグラフト:垂直的および水平的骨量の不足している場合に用います。
・細片骨移植:自家骨を破砕し、遮断膜(コラーゲン膜)やチタンメッシュで被覆して骨量を獲得します。
【べニアグラフト】
唇(くちびる)側歯槽骨(歯根を取り巻く骨)の骨欠損または骨量が不足している場合に、唇舌的幅径の増大をはかるため行う骨造成法です。
50歳代、女性。上顎の骨造成を目的に、紹介により当科を受診しています。
顎堤(どて)が水平的に吸収しているので、通常のインプラント治療だけでは機能的に満足できる上部構造(被せ物)を装着することができません。
オトガイ部より採取した皮質骨ブロックを上顎歯槽堤部に移植し骨造成を行いました。骨造成後3カ月にインプラントを埋入し、プロビジョナルクラウン(仮歯)を入れ、インプラント埋入後10カ月に上部構造を装着しました。
【骨誘導再生法(GBR法:guided bone regeneration)】
骨欠損部に移植骨あるいは骨補填材を充填し、遮断膜(コラーゲン膜)にて固定します。
【スプリットクレスト】
歯槽頂(顎堤の頂上)を骨切りし、骨壁を拡大させ、インプラント体を埋入します。骨欠損部に移植骨あるいは骨補填材を充填し、遮断膜(コラーゲン膜)にて固定します。
【上顎洞底挙上術(サイナスリフト)】
上顎臼歯部の歯槽頂(顎堤の頂上)から上顎洞底までの骨高径が短い場合に、インプラントを埋入するために行う上顎洞底部の骨造成法です。
側方アプローチは、上顎洞前壁の骨を開窓し、上顎洞底部から上顎洞粘膜を剥離します。
歯槽頂アプローチは、歯槽頂から上顎洞底の皮質骨を槌打して骨片とともに上顎洞粘膜を挙上します。
60歳代、男性。上下顎インプラント治療を目的に、紹介により当科を受診しています。
抜歯・上顎骨嚢胞摘出後は上下の顎堤(どて)が水平的に吸収し、上顎臼歯部では歯槽頂から上顎洞底までの骨高径が短いため、インプラントを埋入することができません。そのため上顎洞前壁の骨を開窓し、上顎洞底部から上顎洞粘膜を剥離・挙上して移植するスペースを形成しました。そして、骨補填剤(β-TCP)とオトガイ部の皮質海綿骨を上顎洞底部に移植し、同時に他の部位にインプラントを埋入しました。上顎洞の骨造成後約6カ月にインプラントを埋入し、プロビジョナルクラウン(仮歯)を入れ、インプラント埋入9カ月後に上部構造を装着しました。
【骨延長】
骨切りを行い、骨片間に形成された幼若な仮骨を外力により牽引・延長することで骨形成を促す方法です。歯槽骨では垂直的骨延長法と水平的骨延長法があります。
【インプラントのメインテナンス】
インプラント補綴が長期にわたり健全なインプラント周囲組織と安定した咬合機能を維持するためには、メインテナンスが必須となります。
その内容は、
1)インプラント周囲粘膜・周囲骨の診査
2)患者自身のセルフケアの確認と清掃指導
3)歯科衛生士によるプロフェッショナルケアによる機械的・化学的クリーニング
などがあります。これらを適切な間隔で行い、長期にわたる口腔内環境の変化に対応していくことが重要となります。
*2023年6月現在、歯科衛生士3名が(公社)日本口腔インプラント学会認定専門歯科衛生士の資格を取得しております。
顎顔面骨折
顔面は主に上顎骨、頬骨、鼻骨、眼窩、下顎骨などから構成され、顔面に加わる外力によりこれらの骨は単独あるいは合併して様々な骨折様相を呈し、骨折の程度によっては顔面の変形、眼球運動障害、視力の異常、咬合(咬み合わせ)・咀嚼(食べ物をかみくだく)障害などを惹起します。
したがって、新鮮顔面外傷の骨折治療に際しては可能な限り早期に治療を行い、審美障害や機能障害を後遺させないことが重要であります。この様な治療概念に基づき、当科ではこれまで救命救急センターとの密接な連携の下、多くの顔面多発外傷、なかでも頭部外傷を併発する重篤な顔面外傷の治療にも積極的に携わっております。さらに外傷により欠損した歯・歯槽骨・顎骨に対しては、二次的に骨移植を行い失われた歯の代わりにインプラントを埋入することにより、咬合の再建を行う「集学的治療」を実践しております。
【眼窩骨折】
脆弱な眼窩壁は中顔面骨折により様々な骨折様相を呈し、眼窩内容組織は主に副鼻腔へ脱出して、外眼筋の収縮・伸展制限による眼球運動障害や眼窩内容積の拡大による眼球偏位を惹起します。したがって、眼窩骨折の基本的治療概念は、副鼻腔へ脱出した眼窩内容組織を眼窩内へ適切に整復し、眼窩壁を再建することであります。当科ではこの様な治療概念に基づき、眼窩壁欠損の程度により再建材料を使い分けております。なお眼窩への経皮的アプローチは手術操作性と整容性を考慮して、下眼瞼切開を好んで用いております。
下眼瞼切開
【眼窩壁の骨欠損が小さい場合】
眼窩壁の骨欠損が小さい場合:眼窩壁の再建材料としてGORE-TEX®シートを用います。この材料は心膜あるいは脳硬膜の代用として使用されるもので、強度は劣るが骨欠損部を架橋することにより、眼窩内へ整復した眼窩内容組織を適切に保持することができます。
【眼窩壁の骨欠損が大きい場合】
Titanium Dynamic Mesh™ (日本ストライカー株式会社、以下TM)を用います。この材料は眼窩壁の複雑な解剖学的形態を付与することが可能であり、眼窩下縁にスクリューで固定し骨欠損部を架橋することにより、眼窩の再建を行うことができます。さらにTMの上に適切な厚さのGORE-TEX®シートを静置して、偏位した眼球の垂直的な位置修正を行います。
【頬骨・頬骨弓骨折】
頬骨は顔面や眼窩を構成する重要な硬組織であり、これらの骨折により顔面変形などの審美障害や眼球運動障害・視力の異常などの機能障害を惹起します。したがって、これらの合併症の改善には偏位した頬骨の適切な整復と不動化を図る確実なプレート固定が必要になります。従来から頬骨前頭縫合(眉毛からアプローチ)、眼窩下縁(下眼瞼よりアプローチ)、頬骨上顎縫合(口腔内よりアプローチ)の3カ所にプレート固定を行うThree-plate固定が推奨されております。これに対して当科では低侵襲手術の観点から、患者さまの外傷の程度により個別化した外科療法(Type orientated surgery)を実践しております。
One-plate固定:頬骨の偏位が少ない症例では、頬骨上顎縫合(口腔内よりアプローチ)の1カ所にプレート固定を行います。
Two-plate固定:頬骨の偏位が著明で眼球運動障害がない症例は、頬骨前頭縫合(眉毛からアプローチ)と頬骨上顎縫合(口腔内よりアプローチ)の2カ所にプレート固定を行います。
Three-plate固定:頬骨の偏位が著明で眼球運動障害を認める症例は、前頭頬骨縫合(眉毛からアプローチ)、眼窩下縁(下眼瞼よりアプローチ)および頬骨上顎縫合(口腔内よりアプローチ)の3カ所にプレート固定を行います。
頬骨弓の整復:頬骨弓は顔面の幅径や中顔面の解剖学的ランドマークの決定に重要な硬組織であります。したがって、これらの整復処置に際しては最小限の手術侵襲による確実な骨整復を図るために、C-Arm X線透視下に頬骨弓整復術を行います。
【上顎骨骨折】
顔面の腫脹(腫れ)は必発で、咬合の異常、開閉口(口を開けたり閉じたりすること)障害などが生じます。隣接する頬骨、鼻骨、涙骨、口蓋骨、頭蓋底を構成する骨などの骨折を伴うことが多く、Le Fort I、II、III 型骨折と縦骨折に大別されます。上顎骨では下顎骨に比べて骨を強く牽引する筋肉が付着していないため、外力の方向や強さに応じた骨折がみられます。顎間固定(上下の歯を固定)を行い、骨折部を露出して骨片を整復し、骨折部をミニプレートにて固定します。
【下顎骨骨折】
顎顔面骨折の中で最も多いのが下顎骨骨折です。顔面の腫脹、変形、咬合の異常、顎運動時痛(顎を動かした時の痛み)などが生じ、開閉口が困難になります。下顎骨には様々な筋肉が付着しており、折れた骨が筋肉に引っ張られることにより、咬合が異常になります。治療の原則は機能回復であり、特に咬合機能の回復が重要となります。顎間固定を行い、骨折部を露出して骨片を整復し、骨折部をミニプレートにて固定します。
【関節突起骨折】
骨折の部位、偏位や転位などの状態に応じて、口腔内切開あるいは口腔外切開(下顎下縁切開、下顎後切開など)を用いて手術を行います。
【吸収性プレート】
体内で分解吸収される吸収性プレート(スーパーフィクソーブ®MX、帝人メディカルテクノロジー株式会社)にて骨折部を固定することもあります。
術中写真
【顎間固定】
得られた整復位(元の正常な位置)の安定、術中の整復位を確認・維持するうえで極めて有用です。顎間固定にはIMFスクリュー(ライビンガーIMFスクリュー、日本ストライカー株式会社)、アーチバー(SMARTLock Hybrit MMF、日本ストライカー株式会社)などを用います。
口腔粘膜疾患
口腔粘膜疾患の特徴は、特異的な臨床像に乏しく、紅斑、びらん、潰瘍、白斑など比較的単純な像を示します。口腔粘膜は常に食物や咀嚼による機械的、化学的、温度的刺激を受けており、病態は常に変化しています。口腔粘膜上皮はターンオーバーが早く自然治癒もあり、口腔病変の所見が進行中なのか治癒傾向にあるのか判断することも必要となります。また、全身疾患の部分症状の場合があり、皮膚疾患、ウィルス疾患、血液疾患など全身疾患の初発症状や部分症状として口腔粘膜に病変がみられることもあります。
口腔粘膜病変を観察するために口腔内蛍光観察装置VELscope®Vxを導入しております。波長の短い青色帯域の光を照射し、発生した蛍光をファインダー越しに観察する装置です。健常粘膜、悪性または炎症、角化亢進として描出されます。
口腔先天異常(口唇口蓋裂など)
口唇裂・口蓋裂は日本人でおよそ500人から700人に1人の割合で発生し、体表にある先天性疾患の中ではもっとも多いものの一つです。世界の中でも日本人の発生率は高く、多数の遺伝的因子が関与していると考えられていますが、詳細は明らかではありません。
当院小児科、麻酔科など関連各科の協力のもと、富山大学(野口 誠名誉教授)と連携により治療を行っております。幼い時期に手術した場合は、成人するまで責任を持って治療を行っていきます。