不妊症と婦人科疾患について
当院では、国内でも有数の腹腔鏡手術実施施設であり、また、生殖医学会認定研修施設でもあります。
その豊富な経験をもとに手術と体外受精を組み合わせたいわゆる「ハイブリッド」不妊症治療を行うことができ、妊娠に対して様々なアプローチで治療を行っていくことができます。
腹腔鏡手術とは
全身麻酔をかけ、お腹に3-4箇所 5-12mmほどの穴をあけて行う手術です。炭酸ガスでお腹を膨らませ、20-30cmの長い特殊な器械を使って、骨盤内操作を行います。開腹手術に比べて傷口も小さく、術後の癒着も少ないため、術後の社会復帰・不妊治療により効果的な方法と言えます。
以下に当院で行っている不妊症に関係する手術をご紹介します。
①子宮筋腫核出術
子宮筋腫を核出し、子宮を温存する手術です。子宮筋腫の発生する場所や大きさによっては、
不妊症や不育症の原因になることがあります。サイズが大きい場合には、GnRHアナログ製剤を使用した上で、手術を行います。また、自己血貯血を行うこともあります。
開腹手術の場合は、どうしても術後の癒着により妊娠環境が悪くなってしまうため、当院では巨大筋腫・悪性が完全に否定できない場合以外は、腹腔鏡で行います。2019年には221件の腹腔鏡下筋腫核出術を行いました(別頁 診療実績)。
②子宮内膜症手術
不妊症と子宮内膜症には密接な関わりがあり(子宮内膜症とは)、子宮内膜症による骨盤内癒着、卵管周囲癒着を解除することにより、自然妊娠率を上げることができます。
また、卵巣チョコレート嚢胞(子宮内膜症による卵巣の腫れ)があることにより、卵巣機能低下、嚢胞破裂、悪性化などのリスクを伴う場合には、腹腔鏡手術をすることによって骨盤内環境を改善することができます。子宮内膜症は月経痛や性交痛、排便痛といった症状をきたすことが多く、不妊治療の妨げになることがあります。
重症の場合には、子宮周囲の内膜症で硬くなった結合組織を切除することで疼痛の改善が期待できます。
2019年には当院では250件の内膜症手術を行いました(別頁 診療実績)。ただ、癒着の程度が強い場合は、手術だけでは自然妊娠できない方もおられます。その際には体外受精を提案することもあります。
③腹腔鏡下卵巣多孔術
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に対する治療として、卵巣に10-20箇所穴をあける手術を行います。
術後に排卵障害、着床障害の改善が期待できます。
④腹腔鏡下卵管開口術
子宮内膜症、感染症などが原因で卵管閉塞に至ってしまった方に対し行います。
ただし、異所性妊娠(卵管妊娠)が増えてしまうとの報告もあり、その後の妊娠経過は慎重にフォローしていきます。
⑤腹腔鏡下卵管切除術/クリッピング
基本的には、卵管を両側切除してしまったら、自然妊娠はできません。一見不妊症とは真逆に思える治療ですが、子宮内膜症、感染症などで完全にダメージをうけてしまった卵管は、前述の卵管開口術を行ったとしても、機能の回復は見込めません。
ただ、卵管内に水、あるいは出血成分が月経周期で増減してしまい、子宮内に流入することで体外受精による移植後の妊娠を妨げてしまうことがあります。その場合は、体外受精で良好胚を確保した後に、卵管切除術もしくはクリッピングを行います。
⑥腹腔鏡下スクリーニング
外来での検査では不妊症の原因がみつからず、なかなか妊娠が成立しない方にご提案します。外来検査では見つけにくい骨盤内癒着、卵管可動性障害など、手術を行うことによって、検査をすると同時に治療を行うことができます。全く異常が見つからなかった場合には、体外受精へのステップアップをご提案することがあります。
子宮鏡検査、手術について
当院では外来に細径型子宮鏡を準備しておりますので、月経過多・不正出血・不妊症の原因となりうる内膜ポリープ・粘膜下筋腫などの診断目的に、外来で検査を行うことができます。
実際に治療を行う場合は、入院した上で麻酔をかけ、モニターで子宮内部の様子を見ながら内腔の病変を切除することになります。子宮鏡の治療だけであれば、2-3日の入院期間となります。
多発子宮筋腫の場合、腹腔鏡と併用して筋腫の核出術を行う場合もあります。
当院では2019年、130件の子宮鏡手術を行っており、うち32件は腹腔鏡を併用して手術を行いました(別頁 診療実績)。
子宮内膜症とは
異所性に内膜が発生し、月経痛、腰痛、性交痛、排便痛、卵巣腫瘍、不妊症などの原因となるとされています。
子宮内膜症の有病率は0.8~6%と報告されていて、実はありふれた病気です。報告により差はありますが、不妊症患者の20~50%に子宮内膜症があると言われています。
子宮内膜症が発生しやすい場所としては卵巣、骨盤内の子宮周囲などが多く、卵巣が腫れたり(チョコレート嚢胞)、骨盤内癒着の原因となります。月経痛、排便痛、性交痛も、子宮周囲の骨盤内病変が原因となることがあります。
また、子宮筋層にできることによって、子宮筋層が全体的に厚くなり、月経痛、月経過多の原因となったり、不妊症・不育症の原因となったりすることがあります。
薬物療法のみでも、症状の改善が期待できます。
妊娠を希望する場合、一度治療を中断するため、月経が来るたびに症状の再燃・病状の進行がみられますが、妊娠により子宮内膜症の症状は安定します。
子宮内膜症の治療法について
子宮内膜症の治療は、症状、年齢、進行度、挙児希望などによって検討します。
●保存的治療
対症療法:
症状に対する治療を行っていきます。子宮内膜症に対する根本的な治療ではないため、病状が進行する場合もあります。
例)痛み止め、漢方薬など
内分泌療法:
ホルモン剤により自然の卵胞発育を抑え、月経をなくすもしくは量を減らすことで症状の緩和を目指します。
例)低容量エストロゲンプロゲスチン療法(ルナベル、ヤーズなど)、黄体ホルモン(ディナゲスト)、偽閉経療法(GnRHアゴニスト製剤-リュープリン、ブセレキュアなど)、子宮内黄体ホルモン放出システム(ミレーナ)
●手術療法
年齢、挙児希望のあるなし、病状によって、手術内容が大きく異なります。
妊娠を希望される方にとっては、子宮内膜症に関連するチョコレート嚢胞があるだけで卵巣機能の低下を認めることもありますし、卵巣腫瘍の核出術を行うことでも卵巣機能を低下させることもあります。単純に、妊娠のことだけを考えると、卵巣チョコレート嚢胞に対する手術を行うことでは妊娠率上昇には寄与しないといわれています。ただし、手術によって骨盤内環境を確認することができ、必要に応じてその場で治療することができること、また、卵巣チョコレート嚢胞はがん化のリスクがあるとされているため、サイズによっては手術が必要になることもあります。