logo

文字サイズ

お問い合わせ
arrow

TOP

top

神経内科総合医療センター

HOME > 神経内科総合医療センター > 別班 03 代償性頭位 (補償頭位)

別班 03 代償性頭位 (補償頭位)

2024.10.04

03 眼球運動の基礎(3)

 

代償性頭位(補償頭位):複視にならないように顔の向きで補正する

 

図1
3Dプリンタで作った「火男1号」です。このモデルを用いて顔の向きを示します。眼球運動の基礎(1)で眼球の3軸を定義したのと同様に、この火男1号について、左右の耳をつなぐ水平軸をX軸、頭と首をつなぐ垂直軸をY軸、これらの交点とはズレますが、ひょっとこ口唇をZ軸とします。

 

 

図2
正面を向いたところです。この後で示す顔の傾きにより眼球はわずかながらZ軸のまわりを時計方向、反時計方向に回旋します。虹彩は黒丸だけでは分かりずらいので、ドレミの「ド」のように水平線を付けました。

 

図3
右上斜筋麻痺を考えます。緑の網掛けの上斜筋が弱い場合です。通常は6個の外眼筋が丁度良い筋力のバランスで正面を見ているのですが、右眼球に上斜筋麻痺がある場合、外下方向に向けるはずの上斜筋が弱いため、上直筋の内上方向の筋力に負けてしまいます。それで眼球は内上を向いてしまいます。右眼球のZ軸方向の回旋については、反時計方向に下斜筋と下直筋が作用します。時計方向には上斜筋が弱いため、上直筋のみになります。このため、反時計方向の回旋が優位となります。この2つの理由により顔が正面を向いた時の眼位は次の図4のようになります。

 

図4
眼球が2個あるということは、カメラが2台あるのと同じです。本来なら対象物が2個見えても不思議ではないのですが、水平に並んでいるため、立体視できるように双方の視軸が微調整されています。図4のようにこの微調整が崩れてしまうと、対象物が2個見えるようになります。これが複視です。補償頭位は、複視がなるべく生じないように顔の向きを調整する仕組みです。眼球運動の基礎(1)で示したごとく、内引き眼位で上を向くのは下斜筋、下を向くのは上斜筋が主体です。このケースは上斜筋麻痺ですから、この内引き眼位で下を向くことができません。そこで、右眼球は外眼筋の働きによって外引き眼位にします。

 

図5
顔をY軸で回旋させて少し左を向かせます。右眼球は外直筋の働きで外引き眼位になって正面を向くようになります。左眼球は内直筋の働きにより内引き眼位になります。右眼球が外引き眼位になったおかげで、上を向くには上直筋、下を向くには下直筋が使えます。これで眼球の左右方向の辻褄があうのですが、まだ垂直方向で虹彩の高さが左右で異なります。そこで図6のようにX軸方向に回旋、すなわち顎を引くようにします。

 

図6
正面を見るために左眼球が上方向に動いてくれます。これで左右の眼球とも水平方向、および垂直方向に正面を向くことが出来ました。しかしながら左眼球は水平のままです。顔が水平なので当然のことです。これは意識的には変えられません。つまり左右の目のZ軸まわりの回旋角度が合っていません。そこで図7のごとく顔を少しだけZ軸(火男の口唇)の時計回りに回旋させます。すなわち、首を少し左にかしげます。

 

図7
そうすると左眼球は地面に対して水平になろうとして反時計方向に回旋します。これで左右の眼球のZ軸の回旋角度も一致しました。右上斜筋麻痺がある人は、この顔の位置で正面を見ると、とりあえず上下左右を複視なく見れるようになります。これが代償性頭位(補償頭位)です。

 

図8
左の上斜筋麻痺の場合も同様です。

 

図9
左上直筋に負けて、内上方向を向きます。反時計方向まわりの筋力が弱くなるので、左眼球は時計方向に回ってしまいます。

 

図10
まず、患側である左側を外引き眼位にします。外直筋の働きです。健側の右側は内引き眼位になります。

 

図11
顎を引いて、上目使いにします。

 

図12
首をかしげて、両眼とも地面に対して水平になるようにします。

 

 

 

文責:小林信義