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神経内科総合医療センター

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14 人類の直立二足歩行

2024.10.31

ラジオ放送(2) 人類の直立二足歩行

神経内科の伊藤規絵先生が2024年4月からFMラジオ番組のパーソナリティを務めることになりました。
ラジオ局:RADIOワンダーストレージFMドラマシティ : 77.6MHz
土曜日(月2回) : 11:00 AM ~ (1時間の生放送)
FM電波の届く範囲は限局的ですが、以下の2種のネット配信を行っています。次のアプリを導入することで聴取することが出来ます。オンデマンド配信はありません。
スマホ等 : Listen Radio
パソコン等 : Simul Radio

ラジオ番組(ドクター伊藤の健康百彩)の2024/5/4の放送内容を付します。ラジオ放送で流した楽曲は2次利用できないので、曲を外したものです。伊藤先生はYOUTUBEでも番組内容の発信を始めています。YOUTUBEのタイトルは「ドクター伊藤の歩行と健康」です。

★伊藤規絵先生のYOUTUBE :
https://www.youtube.com/@ドクター伊藤の歩行と健康/videos

 

★ラジオ音源(約40分:2024/5/4) :
ファイルを小さくするためビットレートを下げたので元の音源より音質低下あり。

 

このラジオ番組のためのメモ書きに修正を加えて示します。ラジオでは音声のみでしたが、ここでは図も示します。

—————–

約700万年前に「類人猿の群」と「直立二足歩行を始めた群」が分かれた。
現在も生きている類人猿とは次の5種。
(1)ゴリラ
(2)チンパンジー
(3)ボノボ
(4)オランウータン
(5)テナガザル

(1)~(4)大型類人猿、(5)小型類人猿

かつては小型のチンパンジーをピグミーチンパンジーと呼んだ。
今は別種としてボノボと言われる。
ボノボは実に面白い生態をしているが省略。
現在、直立二足歩行する群は人類=ホモ・サピエンスのみ。
二足歩行する動物は他にも例えば鳥類がいる。
しかしながら直立ではない。
直立とは、踝(くるぶし)・膝・股関節・肩峰・外耳道が 一直線になること。

 

 

ペンギンは外見上は直立に見える。
骨格標本を見ると分かるが、ペンギンは直立の定義から外れる。
相撲の蹲踞のようなガニ股でヨチヨチ歩く。

 

ゴリラやチンパンジー・ボノボは「猿」ではない。
猿は英語で「Monkey」、類人猿は英語で「Ape」
映画「猿の惑星」は「Planet of the Apes」 なので正確に言うと 「類人猿の惑星」となる。
日本語では境目は曖昧だが本来は別物。
猿には尾が有る。類人猿には尾が無い。人間も尾は無い。
猿も類人猿も基本的に四足歩行をする。

 

四足歩行の歩き方として
猿は手の平を地面につける。
類人猿は手の甲側を地面につける。これをナックルウォークと言う。
本当は正確に言うとナックルではない。
木の枝とかを手に持ちながら移動が可能。
足の形は基本的に手と同じ。
親指が他の4指と対向しており、足でも木の枝など握ることができる。
基本的には四足歩行だが、必要な時には二足歩行もできる。
二足歩行を教えると、実に上手に二足歩行する。
しかしながら、類人猿は解剖学的に「直立」ではない

 

以前、志村けんさんの番組の志村動物園に出ていたチンパンジー:パン君
二足歩行しながら水筒のジュースを飲んでいた。
歩きながらのジュースの飲み方を教えたわけではないはず。
二足歩行すると上肢が解放される。
別のことをしながらの歩行が可能になる。
4足歩行は口でくわえて運ぶしかない。
2足歩行は手で持って運ぶことができる。
これが生存の利益になったと思われる。

 

「直立二足歩行を始めた群」の最古の動物はサヘラントロプス・チャデンシスと言われている。
幾つか省略・・・

 

まず、アウストラロピテクス・アファレンシス:約350万年前の人類の祖先。
50年前(1974/11/24)に発見された。
同一個体として40%もの骨が見つかっている個体にはルーシーとの愛称がある。
発掘時にビートルズのLucy in the sky with diamonds が流れていたから。
足の形は人類と同じで、親指が他の4指と同じ方向に向いている。
足が二足歩行に特化していることになる。
このため類人猿のように物をつかむことはできない。
アフリカのラエトリに足跡の化石がある。
この後、足の形は現在のホモ・サピエンスに至る。
このような足の形をした現生動物は人間しかいない。

 

 

 

私の手元にあるアウストラロピテクスの頭蓋骨(レプリカ)を示す。
写真を撮ってCGの四面図形式に編集した。
「おでこ」に相当する部分が無い。
まだ大脳皮質、特に前頭葉が小さかった。
まず直立二足歩行があり、その後に大脳が発達していったと考えられる。

 

例えば馬の姿勢のまま脳が多きくなったとする。
すると頭が大きくなって重くなる。
それを支えるために首の筋肉が強くなる必要がある。
そこに沢山の血流と栄養が必要になる。
ただでさえ脳は大量の栄養(ブドウ糖)や酸素を必要とする。
頭を支えるためだけに首に酸素や栄養が費やされることになる。
これは厳しい自然界での生存にとって不利益になる。
生物の進化は、生存に不利益な方向へは向かわない。

直立二足歩行の場合はどうか?
頭が大きくなっても、言わば背骨(首)の真上にチョコンと載っているだけ。
この場合はバランスをとる筋力だけで十分。
頭が重いことが生存の不利益にはならない。
このことで中枢神経は巨大になり、多機能を発揮することが出来るようになった。
脳が発達したから直立二足歩行が始まったわけではない。

 

バビンスキー徴候:新生児では正常の反応、それ以降は錐体路徴候を示す
神経内科医が診るバビンスキー徴候は、他の動物で観察できない。
なぜ錐体路障害の時にそうなるのか動物実験ができない。

市川団十郎の見得(にらみ):
(1) 眼球を内斜視かつ上下にする
(2) 前に出した足の親指を反らせる→バビンスキー徴候に他ならない
初代団十郎には、軽い脳幹梗塞があったかも・・・?
中脳の障害でウェーバー症候群:動眼神経麻痺+錐体路障害

 

次に、アルディピテクス・ラミダス:アウストラロピテクスより古い。
約440万年前の人類の祖先。
30年前(1994年11月)に発見された。
この発見の元になったのは、当時東京大学の諏訪元先生。
発掘された1個の歯を見て、それは未知の生物の歯だと分かった。
その周辺を集中的に発掘することで、1個体のかなりの骨が出てきた。
この個体の愛称はアルディ。
発掘された骨盤や頭蓋骨から直立二足歩行をしていると分かった。
アウストラロピテクスの足の形は現生人間と同じだったが、
アルディピテクスの足は類人猿と同じだった。
親指が他の4指と向かい合わせ(対向)になっている。
類人猿と同じで、足でものをつかむことができる構造のままだった。
直立二足歩行という点を除けば、全体として現生のボノボにそっくり。

 

類人猿の祖先と人類の祖先は約700万年前に分かれた。
これまで両者の間には大きな溝があった。
アルディピテクスは、この溝を埋めるミッシング・リンク(失われた環)だった。
人類の進化はまず直立二足歩行にあり、足の形はその後で変化した。
常に直立二足歩行をすることで生じたメリットは多い。
1)脳の巨大化(重くなる)が、生存の不利益ではなくなった(前記)。
2)上肢が移動の目的から解放された。
3)喉頭や声帯が重力によって下がることで口腔内に広い共鳴空間が生じた。

そのため言葉をしゃべることが可能になった。
言葉が生まれると、抽象概念を理解できるようになった。
おそらく、「死」とか「埋葬」とか「宗教概念」が生じた。

実は直立二足歩行には不利益な点もいくつかある。
最大のものは難産。
骨盤が上下に縮んだため出口が狭くなった。
他にも痔という病気の存在。
体の中で肛門が下になったため、重力のせいで静脈が鬱血しやすい。

 

文責:小林信義